最近読んだ本
1.フィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」
3000万人が視聴しているTVショウの司会であり歌手である主人公が、突然自分の存在を世界中から忘れられてしまうというストーリー。世界中から忘れられてもセレブリティとしての風格を保つ主人公が、それでも必死になって自分を取り戻すために奮闘します。フィリップ・K・ディックの小説はいつも「あなたがいる世界は現実なのか、それとも虚構なのか」という問いを投げかけてきます。そのトリップ感がなんとも好きですね。もちろんSF描写のさりげなさもいい。描写が細かすぎないから、想像力を喚起するんですよね。ちなみに主人公が何故忘れ去られてしまうのか、という謎の答えが「とある登場人物が飲んだ薬」というのが訳わからなくて素敵。
2.アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」
もうすでに西暦は続編の年「2010年」になっておりますが、映画「2001年宇宙の旅」はSF映画界の永遠の金字塔です。この作品は映画と小説がほぼ同時進行で制作されました。なもんで、原作小説というわけではないのです。映画版の映像美は歴史に残るものですが、驚くことに小説版のほうが、脳内にさらに美しく冷酷な映像が浮かびます。アーサー・C・クラークの小説は読みにくいのも結構ある(と自分では思っている)のですが、こちらは非常に読みやすく、かつ格調高く仕上がっています。新版の訳も見事です。
3.小川糸「食堂かたつむり」
これは、渋谷のTSUTAYAで偶然手に取った「食堂かたつむりの料理」という本をパラパラめくったのがきっかけ。なかなかシンプルで美味しそうなお料理がたくさん載っていたわけですが、「エルメスのためのパン」だとか「熊さんのためのザクロカレー」だとか「ネオコンのためのお茶漬け」など、登場人物らしき名前と料理の組み合わせがなんとも興味をそそるではないですか!…というわけで小説を買ってみたのです。この物語は人間同士の愛、人間の口に入る生き物への愛にあふれています。料理するシーンだけでもかなり美味しそうなのですが、ご飯を食べるときに食材への慈しみの気持ちを忘れないようにしようなんて気にもなります。とくにラスト57ページの展開ったら、もう涙がちらほら出てきかねない。
ところで小心者な僕が感情移入しちゃったのは、熊さんにザクロカレーを食べてもらうシーンです。こんな感じですが引用してもいいですか?
私の緊張は、最高点まで達していた。
もしかしたら、気がつかないうちに涙が入って、味をおかしくしてしまったのかもしれない……。
こうなってしまうと何でも悪い方へ悪い方へと思考を傾かせてしまう小心者の私は、今後プロとしてやっていく自信も、すっかり失いかけていた。
あー、やっぱりただの料理好きとプロフェッショナルな料理人というのは、雲泥の差があるんだ。そう思い始めてしまった私は、もう一秒でも早く、熊さんの手元から食べかけのザクロカレーを、ひったくるようにして流しに下げてしまいたい気持ちになった。
なんでもっと熊さんの舌に合いそうなメニューを、きちんと考えなかったのだろう。
<小川糸「食堂かたつむり」ISBN9784591115015>
こういう思いをすることって僕はしょっちゅうですが、みなさんはいかがでしょう?
ところで、この作品は映画になって上映中ですね!
柴咲コウはちょっと小説を読んだ感じとイメージが違うんだけど…映像もいい感じだし観てみたいね。
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